神戸大学大学院 工学研究科 建築学専攻 住環境計画分野 近藤民代研究室 HOMEへ

被災地学生交流事業

 巨大災害が発生した被災地から神戸に留学している大学生たちが、神戸市内において阪神・淡路大震災の被災者との交流を通じて、神戸の震災復興の経験・教訓を主体的に学ぶことを目的として「被災地学生交流事業」をスタートします。神戸に留学している学生は数多いのですが、阪神・淡路大震災の被災地である神戸の復興へ向けた取り組みやそれによって再生されたまちについて知っている留学生はあまり多くありません。留学生の中には、母国が災害によって大きな被害を受けて現在も復興に取り組んでいる地域も多いのが実情です。彼らが神戸の経験と教訓を被災者から学び取ることを目指してこの事業を行います。事業の企画は近藤の他に、神戸山手大学教授の小林郁雄さん、きんもくせいの天川佳美さん、京都大学防災研究所の牧紀男さんで行っています。この事業には六甲アイランド基金からの活動助成を受けています。

 

2011年度

 

2012年3月17日〜19日 

 今年度は東日本大震災の被災地の大学である宮城大学の学生と神戸の学生たちが現地で交流を行い、復興の課題について議論しました。両大学生たちが岩手県と宮城県を訪れ、震災から1年が経過した被災地を踏査すると共に、南三陸町では復興まちづくり推進員との交流、東松島市では大曲市民センターにおいて高台移転に伴う地域主体の合意形成に向けての取り組みや課題について聞き取りを行いました。

 

○3月17日 被災地縦断:仙台→花巻→遠野→大槌→釜石→大船渡→陸前高田→南三陸    

学生たちは前日に大阪から仙台行の高速バスに乗り、17日早朝仙台駅に到着。仙台駅から花巻空港を経由し、最初の目的地であるコミュニティーケア型仮設住宅「希望の郷(さと)絆」(40戸)に向かう。一般的な応急仮設住宅は住棟が南面平行配置形式であるが、ここでは住宅を木製デッキで結び、デッキ側に玄関を設けることで人々が交流しやすい設計となっていた。次に長崎大司教区大槌町のカリタスジャパンのベースキャンプに向かう。カリタスジャパンとは、カトリックの援助・福祉活動を行う組織で、大槌町でビジネスホテルを買い上げ、そこをボランティア活動の拠点としていた。神戸市長田区たかとり教会の神田神父の支援のもとで開設されており、神戸と東日本大震災の被災地がここでもつながっている。大槌町ベースづくりを進めている長崎大司教区の古木神父に、震災当時の津波の状況などについてお話を伺った。この周辺には他の被災地には営業していた仮設商店街などもないため、人影もなく、ただただ殺風景であった。その後、大船渡、陸前高田を経由して南三陸に到着して一日目は終了した。大槌町から南三陸までの被災地をほぼ半日で縦断し、災害の広域さと復興までの道のりの長さを実感した一日であった。

○3月18日 唐桑養殖業復活感謝祭→気仙沼復幸マルシェ→南三陸  

二日目の朝に宮城大学の竹内泰先生とその研究室の学生たちと合流し、唐桑養殖業復活感謝祭に向かう。広島やRQ市民災害救援センターなどボランティアからの支援を受け、一年で唐桑での牡蠣養殖を再開したことを記念して開催されたイベントであり、ホタテや牡蠣、わかめなどが振る舞われた。その後、気仙沼の復幸マルシェに立ち寄った。釜石でも大船渡でも仮設商店街を訪れたが、参加した学生からは「これは『仮設』なのでいずれはなくなるのであろうが、商店街を運営している組合という組織は残る。その組織が中心となって、仮設商店街での経験を生かしてどのように(本設の)商店街を復興していくのであろう」という意見が出され、今後勉強していきたいと話していた。次に南三陸に向かい、南三陸復興まちづくり推進員である工藤真弓さんにお会いた。仮設住宅団地では居住者同士が隣に住んでいる人たちの名前もわからず不安に思っていたことに気づき、それを解消するため仮設住宅の名簿づくりに取り組んだ活動などを伺った。被災地学生交流事業のメンバーでもあり、神戸山手大学教授の小林郁雄さんが数週間前に東松島を訪れた際に、推進員たちとの会合で「仮設団地といえでも、今を生きるまちである」と言っていた言葉が忘れられなかったと工藤さんはお話しされていた。仮設住宅ではどうしても周りの人に助けられて「やってもらう」ことが増えてしまう。しかし、手助けがなくても前に進んでいくことができるようにしないといけないと感じており、そのためにも行政と住民の間をつなぐ推進員の役割は大切だと感じているとのことであった。工藤さんは復興まちづくり推進員であるが、ひとりの被災者であり、彼女が東日本大震災発生から家族で過ごした避難所を去るまでの10日間をつづった歌を紙芝居に仕立てており、それを参加者で拝聴した。津波のつらい体験を風化させたら、亡くなった人たちの命が無駄になる、との思いから紙芝居をつくられた、という。震災から1年が経過し、瓦礫の山はなくなったものの、復興までの道のりはまだまだ遠いと感じられる被災地で、すでに次の災害を見据えた取り組みがなされていることに驚いた。この後、宮城大学竹内研究室で設計・建設された番屋を見に行く。宮城大学の学生たちの手で目に見える形で復興支援の取り組みがなされている現場は神戸の学生たちにも刺激的であった。

○3月19日 女川→石巻→東松島

 早朝に出発し、坂茂設計の女川町コンテナ仮設住宅を見に行く。高台に建つ野球場のグランドに建設された三階建ての仮設住宅であるが、これをみたタイの留学生は、「仮設」住宅には到底見えない、という感想をもらしていた。次に石巻に向かい、日和山から石巻の市街地を見下ろす。災害直後に被災地を訪れていた参加者からは、きれいになったなあ、との声が聞こえる。瓦礫が撤去されて積み上げられた、という意味である。訪れた門脇小学校の教室の中にはランドセルや子供の文房具がまだ散乱していた。  午後は東松島市の大曲市民センターにて、高台移転などの復興計画を解説してもらった。これからは市民センターが中心となって地域住民たちが復興の総意をまとめていくことが重要である、との力強い声を聞いた。参加した学生たちからは、どのようにして地域住民の復興に対する意見を集約しているのか、などの質問があがった。

○3月末日 被災地学生交流事業の報告会を開催  

東北から戻ってしばらくしてから、野田北部ふるさとネットの集会所にて、参加した学生たちの報告会を開催した。留学生からは母国の災害について紹介がなされた。この被災地学生交流事業に参加した学生たちは、後日、大槌町を再び訪れカリタスジャパンの指導の下で仮設住宅でのボランティア活動を行った。彼らは大槌町を再び訪れたミッションとして三つを説明した。第1に大槌町の状況を把握する、第2に大槌町の住民のニーズを発掘する、B今後復興を支援していく上での現地の協力者を探す。 大槌町の仮設住宅団地は49団地におよび、その規模が小さいこと、それらが点在していて住民同士のつながりをつくることが難しくなっているとの課題を挙げ、今後はつながっていない町民と町民をつなぐこと、仮設住宅団地から町民を誘い出す仕掛けをつくること、仮設住宅団地同士をつなぐ拠点をつくることなどに取り組んでいくことが重要ではないか、との構想が説明された。この報告会には神戸の震災復興にかかわり、現在も東日本大震災での支援を行っているプロフェッショナル達にも参加を呼び掛けていたのだが、現地で手をつないでいくべき協力者たちの助言や現地の動きなどの情報を伺うことができた。また、神戸、中越、台湾、そして東日本が加わって交流を行っている被災地市民交流会の面倍からは、この夏に台湾から壁画隊が大槌のカリタスジャパンの建物に壁画を描きにくるとの話も聞いた。壁画が描かれれば殺伐としたあの建物も大槌のランドマークになるかもしれない、と。被災地でFMラジオ局の支援を行っていたり、今後、被災地を花や緑の力で潤いや安らぎをもたらす取り組みなどを計画しているプロフェッショナル達の話を聞き、神戸から出発した被災地のネットワークの力強さを実感した。神戸の学生たちも建築を学ぶプロフェッショナルとしてだけではなく、かつての被災地神戸のネットワークの一因となって大槌町で力を発揮していきたい、との決意表明がなされた。こうして被災地学生交流事業会の報告会は、大槌町プロジェクト決起集会として幕を閉じた。

 

釜石・青葉公園仮設商店街バス一台で移動唐桑鮪立牡蠣養殖復活祭

釜石市青葉公園仮設商店街(左)、移動中のバスの中の様子(中央)、唐桑養殖業復活感謝祭(右)

 

 

宮城大学竹内泰研究室番屋プロジェクト宮城大学竹内泰研究室番屋プロジェクト

宮城大学竹内研究室で設計・建設された南三陸志津川の番屋(左・中央・右)

 

 

 

南三陸漁業生産組合南三陸さんさん商店街遠野コミュニティケア型木造仮設(希望の郷 絆)

南三陸漁業生産組合(左)、南三陸さんさん商店街(中央)、遠野の仮設住宅希望の郷(さと)絆(右)

 

石巻市立門脇小学校石巻市立門脇小学校気仙沼復幸マルシェ

石巻市立門脇小学校(左・中央)、気仙沼復幸マルシェ(右)

 

大船渡陸前高田のり工房矢本

大船渡(左)、陸前高田(中央)、東松島市のり工房矢本の仮設工場(右)

 

大曲市民センター大曲市民センター大曲市民センター

(左)矢本運動公園応急仮設住宅にて東松島まちづくり推進員さん、仮設住宅自治会長さん、大曲市民センターのスタッフの皆さんと

(中央・右)大曲市民センターにて復興計画について話を聞く

 

女川コンテナ仮設女川コンテナ仮設女川コンテナ仮設

女川町コンテナ仮設(左・中央・右)

 

大槌カリタスジャパン大槌カリタスジャパン大槌カリタスジャパン

(左・中央)大槌カリタスジャパンのベースキャンプにて、ボランティアの方や古木神父さんにお話を伺う

(右)城山公園より大槌を見下ろす

 

津波紙芝居津波紙芝居南三陸

南三陸復興まちづくり推進員である工藤真弓さんの津波紙芝居を聞く(左・中央・右)

野田北ふるさとネットで行われた交流事業報告会+大槌プロジェクト決起集会(左・中央・右)

 

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